傷ついた心は、未来を照らす羅針盤となりうるか? —マインドフルネスからハートフルネスへの探求
- Mindful City Kamakura Week

- 10月5日
- 読了時間: 5分
(本ブログは、過去に登壇をいただいた、Zen2.0の登壇者の方々の講演記録から書き起こしをさせていただいております。)

登壇者:スティーブン・マーフィー・重松 先生
ハーバード大学で心理学博士号を取得後、東京大学大学院での助教授を経て、現在はスタンフォード大学で教鞭をとるウェルネス教育心理学者。マインドフルネスやEQ(心の知能指数)を基に、生きる力やグローバルスキルを高める専門家として国際的に活躍。ご自身の多文化的な背景から、多様性やアイデンティティについても研究を重ね、「ハートフルネス」という概念を提唱されています。
はじめに:私たちは、何を「聴く」ために集うのか
テクノロジーが加速し、世界が複雑さを増す中で、私たちの内なる静寂はどこにあるのでしょうか? Zen2.0は、この根源的な問いを探求するために、世界のリーダーや実践者、そして探求者が集う「場(Ba)」を創造する、意識的な招集者(The Conscious Convener)です 。スティーブン・マーフィー・重松先生のセッションは、まさにその対話の始まりでした。意表を突くユーモアと共に、先生は私たちに問いかけます。
「人生は重く、苦しみや悲しみに満ちています。でも、私たちがその苦しみを乗り越える方法は、ユーモアや笑い、そして人生の軽やかさを見出すことにあるのです」
この言葉は、単なるアイスブレイクではありません。それは、私たちが自身の内なる風景—その重さも軽さも—誠実に見つめるための、心理的な安全性が確保された空間への招待状でした。
初心に帰る:犬と子どもが示す「今、ここ」という叡智
私たちの多くは、過去の後悔と未来への不安の間で揺れ動きながら生きています。しかし、重松先生は一枚の犬の写真を通して、マインドフルネスの原点を指し示します。
「マインドフルネスはとてもシンプルです。犬のことを考えれば、マインドフルネスを理解できます。この犬の目を見れば、マインドフルであることがどういうことか分かるでしょう」
犬は評価や判断をせず、ただ純粋な存在として「今、ここ」にいます。それは、あらゆる可能性に開かれた「初心者の心」そのものです。この初心に帰る感覚こそ、創造性や、他者への深い思いやり(コンパッション)が生まれる土壌となります。それは、複雑な課題に取り組むリーダーやイノベーターが、新たな視点を見出すための出発点でもあるのです。
弱さの受容から生まれる、本物の強さとは
個人の内なる探求は、時に地球規模の課題と響き合います。先生が分かち合ってくれた7歳の頃のサマーキャンプでの体験は、その深いつながりを示唆していました。人種的な偏見に傷つき、孤独を感じていた少年。駆けつけた父親の前で、ついに涙があふれ出します。
「父は私を抱きしめて、『大丈夫だよ、家に帰ってきていいんだよ』と言ってくれました。でも、彼がそう言った途端、自分の中に完全な変化を感じたんです。『帰れない、ここにいなければならない』と。この状況から逃げてはいけない、と」
父親が息子の弱さや脆さを無条件に受け入れたその瞬間、少年の心には恐怖に立ち向かう勇気が生まれました。これは、個人的な癒しの物語であると同時に、現代のリーダーシップが直面する課題—つまり、自身の脆弱性(vulnerability)を認め、それを受容することからしか生まれない本物の強さ—についての深い洞察でもあります。この自己受容こそが、他者への共感と、持続可能な行動の基盤となるのです 33。
金継ぎの思想:傷跡は、未来への道しるべ
私たちは、自分や社会の「壊れた部分」をどう捉えればよいのでしょうか。この問いに対し、先生は日本の伝統美である「金継ぎ」の哲学を提示します。割れた器の傷跡を金で装飾し、新たな美として生まれ変わらせるこの技術は、私たちの生き方そのものへのメタファーです。
「時として、私たちの壊れた部分こそが、私たちの美しい部分なのです。そこで私たちは、何らかの苦しみを経験したからこそ、さらに強くなることができるのです」
傷は、隠すべき欠点ではなく、その人だけのユニークな歴史と強さの証となり得ます。この視点は、失敗を恐れずイノベーションに挑む「マインドフル・イノベーター」や、文化の断絶という痛みを抱える「文化の探求者」にとっても、希望の光となるでしょう 4444。
マインドフルネスが「心(Mind)」の静けさを取り戻す技術なら、ハートフルネスは、その静けさの中で自分や他者の傷をも受け入れ、慈しむ「心(Heart)」の働きです。それは、鎌倉の古い寺の静寂と、打ち寄せる波の音が共存するように、私たちの内なる弱さと強さが共鳴し合う場所から始まります 5。Zen2.0という「場」は、まさにそのための空間です。一人ひとりの内なる探求が、やがて「マインドフルな地球(プラネット)」という共通のビジョンへと繋がっていく。その壮大な旅に、あなたも参加しませんか。
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体験へのお誘い
でも、この発見の本当の面白さは、思考の中だけにあるのでしょうか?
もしかしたら、その答えは、鎌倉の石段を一歩一歩踏みしめる足音や、お寺の庭で頬に触れる風の感触、そして、この街で出会う人々との何気ない会話の中にこそ、隠れているのかもしれません。
今回のような探求の対話は、私たちのYouTubeチャンネルでいつでもご覧いただけます。時代を超えた叡智と今を生きる私たちの問いを結びつける対話を続けていますので、よろしければチャンネル登録でご一緒ください。
そして、もしあなたが「頭で分かる」から「体で感じる」へと、この探求を深めてみたくなったなら。この秋、鎌倉全体を舞台にした 「Mindful City Kamakura Week」 で、お待ちしています。自分、自然、そして出会う人々との繋がりを、五感で再発見する特別な一週間です。
今年のZen2.0は鎌倉の街全体を寺院とした 〜Mindful City Kamakura Week〜
この秋、鎌倉の街全体を舞台にした新しい挑戦「Mindful City Kamakura Week」がはじまります。11月16日から22日の7日間、海や山、森や寺社仏閣といった鎌倉ならではの豊かな自然と歴史ある文化空間が、マインドフルネスを体験し表現する舞台へと姿を変えます 。
テーマは「Spirituality in Nature」 7。Zen2.0で8年間育まれてきた精神を礎に、日常に寄り添う実践をさらに広げ、誰もが自らの感性を持ち寄って共に創るフェスティバルです。プログラムはワークショップや対話、伝統芸能やアート、食やビジネスの取り組みに至るまで幅広く、参加者自身が「出展者」として企画し実現できる開かれた仕組みとなっています 。

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